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東京地方裁判所 昭和49年(レ)342号 判決 1976年8月17日

控訴人

川端キク

外一名

右両名訴訟代理人

山口邦明

外一名

被控訴人

山口友次郎

右訴訟代理人

江尻平八郎

外一名

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、控訴人ら

1  原判決中控訴人らの敗訴部分を取消す。

2  右部分につき被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

1  主文第一項と同旨。

第二  当事者の主張<省略>

第三  証拠<省略>

理由

一当事者間に争いがない事実

被控訴人が昭和四四年五月訴外円山英武から本件建物を買受けてその所有者となつたこと、右買受けの当時、控訴人川端が本件第一建物部分(床面積33.05平方メートル、一〇坪)を、控訴人島川が本件第二建物部分(床面積一階23.14平方メートル、二階4.95平方メートル、8.5坪)を前所有者円山英武から各賃借してこれに居住しており、被控訴人は本件建物の所有権取得に伴つて、右各賃貸借の賃貸人の地位をも承継したが、右の当時における右各建物部分の賃料月額は、前者につき金三〇〇〇円、後者につき金二〇〇〇円であつたこと、被控訴人が控訴人らに対し本件第一回賃料増額請求をしたこと(なお、被控訴人が控訴人らに対し本訴状をもつて本件第二回賃料増額請求をし、右訴状は控訴人川端に昭和四六年八月九日、控訴人島川に同月五日それぞれ送達されたことは、本件記録により明らかである。)、控訴人らが本件第一、二回賃料増額請求の効果を争つていることはいずれも当事者間に争いがない。

二本件第一回賃料増額請求時の適正賃料

1  <証拠>を総合すれば以下の事実が認められる。すなわち、

控訴人島川は昭和三五年九月一日本件建物(同建物が同年新に建築されたものであるこについては後述。)のうち本件第二建物部分を、控訴人川端は同年一二月三一日同じく本件第一建物部分を、それぞれ当時の同建物の所有者であつた武井清志から新に賃借したが、右各建物部分の賃料月額はいずれも前記一と同額とする約定であつたこと、その後、本件建物の所有権は転々譲渡され、前記のとおり昭和四四年五月被控訴人がこれを取得するに至つたが(これと共に被控訴人は本件建物の敷地の借地権も譲渡けた。)、この間右各約定の賃料は改訂をみないまま推移してきたこと(なお、同四〇年九月二五日当時の本件建物の所有者であつた訴外吉田省次郎と控訴人らとの間に、同年八月一日から同四一年三月三一日まで本件第一、二建物部分の賃料(月額)を合計金二万四五〇〇円とする旨の約定が成立しているが、これは当時控訴人らが同訴外人から右期間内に本件建物を他に売却することを委任され、右委任契約に付帯して同人に金二〇万円を貸与した(控訴人らは、これをもつて敷金の差入れであると主張するが、採用できない。)ことから、右貸金の返済方法として、右各建物部分の賃料月額の合計額を暫定的に金二万四五〇〇円とし、右貸金債権と賃料債権とを月毎に順次対当額で相殺する旨の合意が成立したことによるものであつて、きわめて特殊な事情に基づいて設定された賃料(それは純然たる右各建物部分の使用の対価ではない。)であり、右期間経過後は再び元の賃料に復している。)、昭和三五年以降、公租公課、地価及び近隣の建物の賃料は高騰を続け、右のような経済事情の変動の結果、本件第一回賃料増額請求時には本件第一、二建物部分についての従前の賃料は不相当なものとなつたこと。

以上のとおり認定することができ、<証拠判断略>。

2  そこで本件第一回賃料増額請求時における適正賃料について判断する。

(一)  <証拠>によれば次の諸事実が認められる(なお、以下の事実においてとくに時点を限らない場合は、昭和四四年一二月一日時点のものである。)。

(1) 本件建物の総床面積は実測33.75坪(一階一七坪、二階16.75坪)、その敷地(以下「本件土地」という。)の面積は二五坪で、被控訴人は同建物所有の目的で本件土地を訴外川野梅太郎から賃借している。

(2) 本件土地の更地価格は坪当り金一五万円(<証拠>によれば、本件土地を含む江戸川区南小岩五丁目一三一六番一宅地(地積2804.82平方メートル)の昭和四四年度における固定資産評価額は金一七二一万一八五〇円で、坪当り約二万〇二五六円であることが認められるが、これをもつて時価とみなすことはできない。)、その借地権割合は七〇パーセントであるから、本件土地の借地権価格は金二六二万五〇〇〇円となる(150,000×25×0.7)。

(3) 本件建物の再調達価格は床面積坪当り金一四万円(合計四七二万五〇〇〇円)、その耐用年数は三〇年、右年数経過後の残価は右価格の二〇パーセントであるから、同建物の現在価格は、建築後九年として金三五九万一〇〇〇円となる(140,000×33.75×(1−0.8×9÷30))。

(4) 本件土地(借地)、建物の基礎価格のうち借家人に帰属すべき割合(いわゆる「借家権価格」に相当する部分)はいずれも三〇パーセントであるから、賃貸人に帰属すべき右土地の元本(投下資本)価格は金一八三万七五〇〇円、右建物のそれは金二五一万三七〇〇円となる。

(5) 本件建物の賃貸人の期待利廻りは、土地(借地)につき年八パーセント、建物につき年一〇パーセントが相当であるから、右土地、建物を投下資本とする利潤額(年額)は土地につき金一四万七〇〇〇円、建物につき金二五万一三七〇円となる。

(6) 本件建物の昭和四四年度における固定資産税、都市計画税の総額は金一万四三三七円、同年の本件土地の地代(年額)は金一万六五〇〇円であり、同年度の本件建物の減価償却費は金一二万六〇〇〇円(前記再調達価格の八割の三〇分の一)同建物に関する損害保険料(年額)は金七一八二円(前記現在価格の一〇〇〇円につき二円の割)、同建物の修繕費(年額)は金九万四五〇〇円(前記再調達価格の一〇〇分の二)、同建物の管理費(年額)は後記の総賃料(年額)の五パーセントに当る金三万四五七三円が各相当である。

以上の事実を基礎として、「本件土地、建物を投下資本とする利潤額+必要経費」の算式に従つて、昭和四四年年一二月一日時点における同建物の原則的継続賃料(年額)を算出すると金六九万一四六二円となるから、これを本件第一建物部分、同建物部分にその面積比に従つて按分したうえその月額を求めると、前者につき金一万七〇七三円、後者につき金一万四五一二円となる。

もつとも、右の各金額は、本件第一建物部分と同第二建物部分の利用条件が同一であることを前提にした数額であるが、前記のとおり本件第二建物部分は一階と二階の各一部によつて構成される使用区分であること、本件第一建物部分は一階東側に位置し、また比較的広い公道に面していること(この事実は、<証拠>によつて認められる。)に鑑みれば、本件第一建物部分は同第二建物部分に比して、その利用価値の面においてやや勝つているものと考えられるから、この点を斟酌して前記各賃料に若干の修正を加え本件第一建物部分につき金一万八〇〇〇円、同第二建物部分につき金一万四〇〇〇円をもつて原則的継続賃料とみるのが相当である。

(二)  ところで、右各賃料は増額請求前の約定賃料に比して、本件第一建物部分については六倍、同第二建物部分については七倍という高額であり、賃借人たる控訴人らにとつて酷であると一応考えられる。もとより、右の各賃料が昭和三五年に設定されたものであることは前記のとおりであり、前掲鑑定の結果によれば、右賃料は当時としても低廉な額であつたことが認められるうえ、それが昭和四四年一二月まで約九年もの間据え置かれてきたことは、きわめて異常と目さなければならず、また、かかる事情が後記のような控訴人らと武井清志(昭和三五年当時の賃貸人)との間の特殊な関係に基づくものであることは、十分に留意しなければならない。しかしながら、ともかくも右のような賃料で長年生活の本拠を確保してきた控訴人らの利益は顧慮するに値するものであつて、これを無視して一挙に六倍ないし七倍という賃料額の高騰を容認することは妥当でないと考えられる。

以上のような点を考慮し、さらに前掲鑑定の結果によれば、昭和三五年から同四四年にかけて一般取引界における家賃額はほぼ二倍の伸びを示していると認められることをも勘案すると、同年一二月一日時点での適正継続賃料は、前記の原則的賃料に修正を加え、従前の賃料を二倍した額に右原則的賃料額を加算し、これを二で除した数額とするのが相当である。これによると、適正継続賃料月額は本件第一建物部分につき金一万二〇〇〇円((三、〇〇〇×二+一八、〇〇〇)÷二)、同第二建物部分につき金九〇〇〇円((二、〇〇〇×二+一四、〇〇〇)÷二)となる。

(三)  前掲鑑定の結果のうち、以上の算式及び結論に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。

三本件第二回賃料増額請求時の適正賃料

前掲鑑定の結果によれば、昭和四四年一二月から本訴提起時である同四六年七月ころまでの間、公租公課は僅かながら低減したものの、地価は三割弱、建物の再調達価格、地代はいずれも二割程度騰貴し、その結果、本件第一回賃料増額請求時における適正賃料も不相当となるに至つたことが認められる。そして、右の認定事実及び右の地価、建物の再調達価格の騰貴に伴つていわゆる借家権価格も若干増加したと考えられること並びに弁論の全趣旨に照らせば、本件第二回賃料増額請求時における適正継続賃料(月額)は、前記の本件第一回賃料増額請求時のそれにその二〇パーセントを加算した額とみるのが相当であり、従つて、本件第一建物部分につき金一万四四〇〇円、同第二建物部分につき金一万〇八〇〇円となる。

前掲鑑定の結果のうち、右の算式及び結論に反する部分は採用し難く、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。

四控訴人らの主張に対する判断

1  賃料増額禁止の特約について

(一)  <証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができる。

本件土地及びその西側に隣接する土地の上には、かつて木造平家建一棟二戸の建物が存し、訴外村井知子、同石橋周年の両名がこれを共有(持分は各二分の一)していたが、武井清志は昭和三五年ころ右石橋の同建物に対する共有持分権を譲受けた後、右村井との協議により同建物を持分に従つて分割し、その西側の一戸を同人の、東側の一戸(以下「本件旧建物」という。)を武井清志の所有とすることにした。右分割の協議が成立した当時、控訴人島川は本件旧建物を賃借して(昭和一七年以来)ここに居住し、一方控訴人川端も同建物の近隣に居住していたが、右両名に武井清志を加えた三人は共に創価学会の会員でもあつたことから、かねてより親しい間柄にあり、同人が同建物の所有者となつた後、右三人の合意によりこれを取毀して新に居宅を建築し、各人がこれに居住するとともに、その一部を創価学会の会員達の集合場所に利用することにした。そこで、武井清志は昭和三五年七月ころ本件旧建物を西側の一戸から切離してこれを取毀し、本件建物の建築にとりかかつたが、同建物において控訴人島川の居住が予定されている部分の総床面積は、従前の本件旧建物に比してかなり狭隘になる見込みであつたので、その点について同控訴人の了解を得たうえ、同年九月一日同控訴人との間に本件第二建物部分につき賃貸借契約を結び、同契約において同控訴人から右のような譲歩を得た代償として、賃料は従前どおり月額金二〇〇〇円に据え置くこと、今後一般諸物価、本件建物に関する公租公課等が騰貴しても右賃料の改訂は行わないことを約した。

一方、控訴人川端は、前記のとおり本件建物が完成した後には自らもそこに居住することになつていたうえ、もともと武井清志とはじつ懇の間柄にあつたことから、同建物の建築にあたつてその資金として金六五万円を拠出した。このような事情から、武井清志としては、本件建物が完成し控訴人川端がこれに居住するようになつた際にも、同控訴人に対し賃料は不要である旨の意向を示したが、同控訴人が進んで賃料を支払う旨申し出たため、結局昭和三五年一二月同控訴人との間に本件第一建物部分につき賃貸借契約を締結し、賃料月額を金三〇〇〇円と定めるとともに控訴人島川に対すると同趣旨の賃料増額禁止の特約を結んだ(以下において、武井清志と控訴人らとの間の各賃料増額禁止の特約を一括して「本件特約」という。)。

以上のとおり認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

なお、前掲乙第二号証中には、武井清志と控訴人川端との間の前記賃貸借契約に際して「敷金」六五万円が授受された旨の記載があるが、証人武井清志の証言(原審)、同控訴人本人尋問の結果(原審)によれば、これは、同控訴人が本件建物の建築資金として同人のために拠出した前記金六五万円につき、右当事者間において領収書の授受に代え、便宜右乙第三号証に右認定の記載をしたものであることを認めることができ、叙上認定の諸事実によれば、右金六五万円は法律上の敷金として授受されたものではなく、いわゆる「権利金」と目すべきものであり、控訴人川端において武井清志(又はその賃貸人の地位を承継した者)に対してその返還を求めうる性質のものではないというべきである。

(二)  控訴人らは、本件特約は賃貸人の地位の移転に伴つて当然に承継されるものであるから、被控訴人も右特約に拘束され控訴人らに対し賃料増額を請求することは許されない旨主張する。

なるほど、借家人が賃貸建物の引渡しを受けている場合に、右建物について所有権の移転及びその登記がなされたときには、右借家権について登記がなくとも、旧所有者(旧賃貸人)と賃借人との間の当該建物の使用収益に関する基本的契約関係は、新所有者(新賃貸人)と借家人の間に移行するのが原則である。しかしながら、本件特約(これが賃料に関する約定として、本件第一、二建物部分の賃貸借に関する基本的契約関係の一部であることは明らかである。)のように控訴人らと武井清志との間のきわめて特殊な事情に基づく、賃貸人に一方的に不利益な特約で、しかも新所有者においてその存在を予期することが困難なもの(借家法七条一項但書は期間を限定した賃料増額禁止の特約の存在を予想しているが、本件特約には期間の定めはなく、また<証拠>によれば、本件第一、二建物部分の借家契約自体も期間の定めのないものであることが認められる。)については、その効力は、当事者間に特段の意思表示がない限り、当該特約を締結した者(包括承継人を含む。)の間にしか及ばず、新所有者(新賃貸人)と賃借人の間には及ばないものと解するのが相当である。

しかるところ、本件全証拠によつても、少なくとも被控訴人が本件第一、二建物部分の賃貸人の地位を承継するにあたり、黙示的にせよ本件特約をも承継する旨の意思表示をしたことを認め得る証拠はなく、かえつて、控訴人川端(原審)、被控訴人(原審第一回、当審)各本人尋問の結果によれば、被控訴人は右賃貸人の地位を承継した直後から訴外木村某を介して控訴人らとの間に賃料増額についての交渉を開始しているのであるから、本件特約の承継を承認しなかつたものと推認するのが相当であり、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみると、控訴人らの頭書の主張は理由がない。

(三)  控訴人らは、仮に本件特約をもつて永久に賃料を増額しない趣旨と解することが不合理であるとしても、前記のような右特約成立の事情を考慮に入れてこれを合理的に解釈すれば、賃貸人に対し世間一般の水準の経済的利益の獲得を制限するもので、具体的には賃料増額の限度を地代家賃統制令所定の金額若くは物価上昇率の程度に応じた範囲内の限度に留める趣旨と解すべきであり、かかる特約として当然に新賃貸人に承継されるものである旨主張するが、本件特約を右のように解すべき根拠を見出すことはできないのみならず、仮に右のように解し得られるとしても、賃貸人の合理的な利益追求を著しく制限する特約が当然には新賃貸人に承継されないことは前記のとおりであるから、右主張も失当である。

(四)  控訴人川端は、前記のとおり、同控訴人が本件建物の増改築にあたつて建築資金六五万円を拠出していること、同控訴人と武井清志の間においては同建物は右両名の共有物と意識されていたことなど本件特約成立の事情に鑑みれば、仮に同特約が被控訴人に承継されないとしても、同控訴人に対して賃料増額の請求を認めるのは不当である旨主張する。

しかしながら、賃貸中の建物の新所有者が前所有者から承継するものは前所有者と賃借人との間に締結された賃貸借契約の内容をなす事項だけであつて(かかる事項でもその性質上承継されないものがあることは前記のとおりである。)、新所有者はその契約内容たる事項が定められるに至つた事情までもこれを承継するものではなく、またこれに拘束されるものではないというべきであるから、控訴人川端の右主張は採用の限りでない。

2  地代家賃統制令の適用について

控訴人らは、本件旧建物はもともと昭和一六年一月三〇日に建築された木造平家建一棟二戸床面積81.52平方メートルの一部であつて、昭和三五年これに増改築が施されて現在の本件建物になつたものであるから、同建物の賃貸借に関しては地代家賃統制令の適用があり、被控訴人の本件第一、二回賃料増額請求は右法令の制限内で効力を有するにすぎない旨主張する。

<証拠>を総合すれば、本件旧建物は昭和一七年一月以前に建築された木造平家建一棟二戸のうち一戸であつたが、前記のとおり同三五年七月一〇日ころ武井清志がこれを他の一戸から切離したうえ取毀し、その廃材の一部と新材料を用いて木造二階建の本件建物を築造したこと、本件建物の一階部分は、その床面積が本件旧建物に比して約五坪拡張され、ほぼ中央部に南北に間切りが設けられてその両側が各々独立に使用できるようになり、これに併せて北側部分に台所、手洗所各二個が設置されたため、間取りの様相は一変したこと、また、二階部分は八帖、六帖、4.5帖、三帖各一間の間取りで、内階段によつて一階部分と連結されているほか、外部階段によつて直接外部に通ずる構造になつており、この二階部分も独立に使用することが可能であること、本件建物の築造工事は、昭和三五年一二月ころ完了していることが各認められる。

右の事実によれば、本件旧建物と本件建物との間には建物としての同一性はなく、同建物は昭和三五年に新築されたものとみるのが相当である。従つて、本件建物の賃料については地代家賃統制令の適用が除外されるものというべきであり、右と異なる見解を前提とする控訴人らの頭書の主張は採用できない。

五結論

以上のとおりであるから、本件第一回賃料増額請求は、本件第一建物部分につき昭和四四年一二月一日以降請求額(金一万〇五〇〇円)どおり、本件第二建物部分につき同日以降金九〇〇〇円の限度においてそれぞれ効力を生じ、また、本件第二回賃料増額請求は、前者につき同四六年八月九日以降金一万四四〇〇円の、後者につき同月五日以降金一万〇八〇〇円の各限度においてそれぞれ効力を生じたものというべきであり、原判決はこれと趣旨を異にすることとなる。しかしながら、原判決認容にかかる賃料(本件第一建物部分につき昭和四四年一二月一日以降金八〇〇〇円、同四六年八月五日以降金一万円、本件第二建物部分につき同四四年一二月一日以降金七〇〇〇円、同四六年八月九日以降金九〇〇〇円。但し、原判決が本件第二回賃料増額請求に基づく増額の起算日を、本件第一建物部分につき昭和四六年八月五日、本件第二建物部分につき同月九日としている点は明白な過誤であると認められる。)は、いずれも右各認定額の範囲内の額であつて、被控訴人の控訴又は付帯控訴の申立のない本件においては、控訴人に不利益に原判決を変更することはできないから、結局控訴人らの本件控訴をいずれも棄却すべきである。

よつて、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(大和勇美 矢崎秀一 小池信行)

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